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このサイトについて / About This Website 2018-03-09T14:53:12+00:00
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近代日本の精神疾患・結核・ハンセン病の歴史
鈴木晃仁(研究代表者・慶應義塾大学)

はじめに

本研究は、近代日本の精神疾患、結核、ハンセン病の三つの疾病をめぐる環境と対応が20世紀を通じてどのように変化したかを問うものです。[i]

人文社会科学系の医学史

本研究は、20世紀の医学史を人文社会科学の視点で分析する手法を提供します。イギリスの新しい医学史をけん引したロジャー・クーターとジョン・ピックストーンは、「20世紀の医療の歴史は、20世紀の歴史である」という警句を刻みました (Cooter and Pickstone 2003)。20世紀の医学史は、人文社会科学の各ディシプリンと深くかかわっています。そのため、身体、精神、健康、疾病、生命倫理、障碍など、第一義的には医学にかかわる主題が、人文社会科学の各領域それぞれの視点から積極的に取り上げられました。また、新しい医学史は、過去を歴史学的に提示するだけではなく、現在と未来への視点を考えるようなダイナミズムも持つようになりました (Jackson 2011)。医学史は、多様な人文社会系の学問にとって、その境界内の主題でありながら、現在と将来の医療を考える新領域となってきました。

疾病という医学系の視点

その一方で、この新たな医学史は、疾病という医学の概念と深くかかわる志向をもっています (Kiple, 1993; Weisz 2014)。そこで本研究では、医学の概念であり実践であった疾病の枠組み、特に精神疾患、結核、ハンセン病の三つの疾病を検討対象とします。本研究は、国家、ジェンダー、格差、障碍といった人文社会科学の概念だけでなく、疾病という医学的な概念を重要なフレイムワークとしているのです。

これらの三つの疾病について、ヨーロッパや北米では、優れた医学史上の著作が世に問われてきました。中世のハンセン病、近代の結核、古代から現代の精神疾患などについて、ミシェル・フーコー、アンリ・エレンベルガー、アーウィン・アッカークネヒト、ルネ・デュボス、ロイ・ポーターなどが名著を書いております(フーコー 1975 & 1977; エレンベルガー 1980; アッカークネヒト 2012; Dubos 1987; Porter 1990)。
近現代の日本においても、これらの疾患について本研究チームのメンバーによる重要な著作が多く出ております(福田 1995; 中村 2018; 佐藤 2012; 廣川 2011; 高林 2017; 橋本 2011; 後藤 2012)。

この研究で目標とするのは、近代日本における、この三つの疾病群に対するさまざまな政策、医療、対応、表象の相互作用を分析することです。この三つの疾患は、単に羅列したものではありません。長期療養型であり国家や家族や地域や社会が深くかかわるという形態を共有しています。本Webサイトでは、これらの疾患をまとめてMental Afflictions, Tuberculosis and Hansen’s diseaseを省略したMATHと呼ぶこととします。

視点と方法

本研究では、これまで人文社会科学で培われた多様な研究の方法を用います。医師たちが何を行ったかということも、もちろん視点の一つとなります。しかし、バイナムとポーターが言うように、偉大な医師たちだけが関心の焦点ではありません (Bynum and Porter 1997)。様々な医療者たちがかかわった政治・行政・経済・社会的な力なども重要な論点になります(Takabayashi 2017)。また、法制度や病院施設や地域社会のみならず、患者の家族というプレイヤーも重要になってきます(Suzuki 2006)。こうした要因に迫るため、治療の場であった施設のアーカイブズ史資料を精査することも一つの目標になります(廣川 2016)。

また、医師や患者の個人にかかわる質的なアプローチと並んで、統計という量的なアプローチもこの研究では重視されます。三つの疾患にまつわる統計資料を掲載することは、このサイトの重要な目的のひとつです。統計的な分析によって、日本の三つの疾病に関する歴史的な特徴は、国内のみならず国際的にも議論されることが期待されます。

本研究は、三つの疾患MATH(精神疾患、結核、ハンセン病)について、医学とのかかわりも視野に入れつつ人文社会科学の視点から研究し、本サイトにて多様な研究成果の提供と発信を行ってまいります。

文献註

  • Bynum, W. F., and Roy Porter. (1997). Companion Encyclopedia of the History of Medicine. Routledge.
  • Cooter, Roger, and John V. Pickstone (2003). Companion to Medicine in the Twentieth Century. World Reference. Routledge.
  • Dubos, René Jules, and Jean Dubos. (1987). The White Plague: Tuberculosis, Man, and Society. Rutgers University Press.
  • Jackson, Mark. (2011). The Oxford Handbook of the History of Medicine. Oxford: Oxford University Press.
  • Kiple, Kenneth F. (1993). The Cambridge World History of Human Disease. Cambridge University Press.
  • Porter, Roy. (1990). Mind-Forg’d Manacles: A History of Madness in England from the Restoration to the Regency. Penguin.
  • Suzuki, Akihito. (2006). Madness at Home: The Psychiatrist, the Patient, and the Family in England, 1820-1860. Medicine and Society. Vol. 13: University of California Press, 2006.
  • Takabayashi, Akinobu. (2017). “Surviving the Lunacy Act of 1890: English Psychiatrists and Professional Development During the Early Twentieth Century.” Medical History 61, no. 2: 246-69.
  • Weisz, George. (2014). Chronic Disease in the Twentieth Century: A History. Johns Hopkins University Press.
  • アッカークネヒト, E. (2012). Ackerknecht, Erwin Heinz, パリ、病院医学の誕生 : 革命暦第三年から二月革命へ. 館野之男訳. みすず書房, 2012.
  • エレンベルガー, H. (1980). Ellenberger, Henri F., 無意識の発見 : 力動精神医学発達史. 木村敏・中井久夫訳. 弘文堂, 1980.
  • 後藤基行. (2012). “戦前期日本における私立精神病院の発展と公費監置 : 「精神病者監護法」「精神病院法」下の病床供給システム.” 社会経済史学 78, no. 3 (2012 2012): 379-402
  • 佐藤雅浩. (2013). 精神疾患言説の歴史社会学: 「心の病」はなぜ流行するのか. 新曜社.
  • 高林陽展. (2017). 精神医療、脱施設化の起源 : 英国の精神科医と専門職としての発展1890-1930. みすず書房.
  • 中村江里. (2018). 戦争とトラウマ : 不可視化された日本兵の戦争神経症. 吉川弘文館.
  • 日本学術振興会. (2017). 20世紀日本の長期療養型疾患の歴史―ハンセン病・精神疾患・結核の比較統合的検討
    https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H00830/
  • 橋本明. (2011). 精神病者と私宅監置 : 近代日本精神医療史の基礎的研究. 六花出版.
  • 廣川和花. (2011). 近代日本のハンセン病問題と地域社会. 大阪大学出版会.
  • 廣川和花. (2016). “医療アーカイブズ試論-研究倫理・医療情報・スティグマの観点から―.” 歴史学研究, no. 952: 13-24.
  • フーコー, M. (1975). Foucault, Michel. 狂気の歴史 : 古典主義時代における. 田村俶訳, 新潮社.
  • フーコー, M. (1977). Foucault, Michel. 監獄の誕生 : 監視と処罰. 田村俶訳, 新潮社, 1977.
  • 福田眞人. (1995). 結核の文化史 : 近代日本における病のイメージ. 名古屋大学出版会.

[1] 研究の資金は、日本学術振興会から科研費基盤研究(A)として2017年4月から2021年3月まで4年間いただいております。ここは、研究チームを構成する15名を超えるメンバーからなる医学史の第一線の研究者たちが、国内と世界の双方に発信する場となります。20世紀日本の長期療養型疾患の歴史―ハンセン病・精神疾患・結核の比較統合的検討. https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H00830/